多聞寺

1.レトロな空気とグーグルマップ

東武スカイツリーラインに乗って鐘ヶ淵駅を降りると、どこか懐かしい空気を感じました。地上駅に踏切、そして高い建物が比較的少ない街並みが、そうした空気を作り出しているのでしょう。そんな中、駅から住宅密集地の細い道を十数分歩いて、隅田川七福神の毘沙門天、多聞寺を目指すことにしました。
多聞寺は墨堤通りとスカイツリーラインの間にありますが、周辺の道が細く入り組んでいるので場所がややわかりにくいといえます。レトロな空気感の中で、時折グーグルマップに頼りながらどうにかお寺に到着できました。

 

2.参道から山門へ

参道の入り口には、阿弥陀如来像と子育地蔵像があります。どちらも素朴な感じで、古くから続いているお寺らしい雰囲気を醸し出すとともに、この先にも見どころがたくさんあることを暗示しているようでした。
石像がいくつも並んだ参道を進むと山門に着きました。現在では珍しい茅葺屋根の立派な四脚門は、多聞寺の顔といえそうです。山門の右側には、榎本武揚の書を石に刻んだ隅田川七福神の碑があります。向島が榎本武揚ゆかりの地であることは、この後、榎本武揚像を見に行って解説を読んだ時に初めて知りました。

 

3.狸塚

山門をくぐるとすぐ右手に、東京大空襲で被災した鉄骨や、戦火で焼かれた木が並んでいました。境内には平和観音像もあるので、お寺や檀信徒の平和に対する意識の高さがうかがえます。
本堂に向かって少し進むと、左手に狸塚があります。解説を読んで、多聞寺の境内に狸の像がいくつもあるのは狸にまつわる伝説によるものだ、と納得しました。伝説については解説板やウェブサイトを参照するとして、こうした伝説や言い伝えは参拝者の興味や関心を引き、お寺の魅力や見どころにつながるものといえそうです。

 

4.六地蔵坐像と本堂

さらに本堂に近づくと、今度は六地蔵坐像が目に留まりました。ウェブサイトの解説によれば、坐った姿の六地蔵像は珍しいとのことで、そう言われてみれば「なるほど」という気がします。像には一部欠損がありますが、それがかえって歴史を感じさせました。
そして平和観音の前を通り、ようやく本堂に着きました。本尊の毘沙門天の御真言が書かれた札が掲げられているところがユニークといえます。お寺にお参りするときには本尊を特に意識しないことが多いですが、ここでは毘沙門天を意識せずにはいられませんでした。

 

5.不思議な空間

本堂に参拝した後は、「映画人ノ墓碑」と刻まれた石碑のある所へ行ってみました。解説などが見当たらなかったので石碑の由来はわかりませんでしたが、それはともかく、石碑の新しさと周辺の石塔の古さが対照的でした。
さらに奥へ進むと、古い石塔がたくさん並んだ、不思議な感じの空間がありました。庚申塔と、無縁仏の供養塔です。古い庚申塔を見ていると、江戸時代に庚申信仰がさかんだったことがしのばれます。同時に、軽率に写真を撮るのが憚られるような、独特な空気を感じました。たぶんこの空気は、庚申塔と供養塔、そしてその奥にある墓地が作り出しているものかもしれません。
そうした空気に影響されてしまった私は、「もしかするとまだ見るところがあるかもしれない」と思いながらも境内の散策をやめて、多聞寺を後にしました。自分に霊感があるという自覚は全くないのですが…。

 

Lisa Aoki