安養院

1.車で行くか、電車で行くか

板橋区の志村・高島平エリアには車でよく行く私ですが、安養院のある常盤台エリアは全く不案内です。初めての場所に電車で行くか車で行くかさんざん迷ったあげく、結局電車で行くことにしました。
自宅から車で行く場合は新大宮バイパスと川越街道を使うことになりますが、川越街道から安養院までの道はかなり細いです。川越街道を右折して細い道に入るのはどうしても気が進みませんでした。
国道17号から志村警察署の交差点を右折して、前野町を通って行くという方法もありますが、東武東上線の踏切がネックになります。踏切が全くない地域に住んでいて、自分で車を運転して踏切を渡った経験がほとんどない私にとって、運転本数の多い東上線の踏切は恐怖以外の何物でもありません。
国道17号と環七通りと川越街道を使えば、左折で細い道に入ることになりますが、これではかなり遠回りになってしまいます。
そんなわけで、安養院には電車で行くことにしました。消去法ともいえる、ある意味で消極的な選択です。

 

2.上板橋から安養院へ

東武東上線上板橋駅を降りると、庶民的な感じの商店街が目に入りました。昭和の面影を色濃く残し、どこか雑然としていて活気のある様子から、知らない土地に来たことが実感できました。赤羽や十条、あるいは川口にも商店街はありますが、雰囲気が明らかに異なるように思います。上板橋の商店街に比べると、整然とした感じなのです。「出没!アド街ック天国」(テレビ東京)といったテレビ番組からは伝わりにくく、実際に行ってみて初めて体感できるような違いを感じます。
駅前の商店街を抜けて川越街道を渡り、住宅地の中の細い道をしばらく歩くと、趣のある木造の建物が目を引きました。安養院の庫裏で、旧松平基則伯爵邸を移築したものです。寺院というよりも旅館や料亭、あるいは別荘のような感じがしました。
その後いったん外に出て、山門から改めて境内に入ることにしました。山門をくぐると正面の本堂に向かって参道が続いていて、その両側に古い石像や石碑、石塔などがありました。歴史の古いお寺だということがうかがえます。
本堂で本尊を拝んだ後に建物をよく見ると、屋根に梵字を発見。珍しいので、思わず写真に収めてしまいました。

 

3.お砂踏み

境内を散策していると、お砂踏みが目につきました。四国八十八ヶ所霊場の名前が88の踏石のそれぞれに刻まれていて、その上を歩くことで88か所の霊場を巡礼したのと同じご利益があるそうです。ちなみにお砂踏みは、安養院のほかに埼玉県川口市の密蔵院にもあります。密蔵院のお砂踏みが山門から本堂へ一直線に向かっている一方で、安養院のお砂踏みは弘法大師の像を中心としていて、外側から中心に向かって渦を巻くように進んでいきます。
さてお砂踏みを歩いていると、弘法大師像の足元に、藁でできた何かが立っているのに気づきました。案山子とも人形ともつかない感じのもので、頭にあたる部分から稲穂が出ています。同じようなものは、境内のあちこちにありました。一体何なのか、不思議に思います。
お砂踏みの近くには鐘楼があり、国の重要美術品である銅鐘が掛かっていました。この銅鐘については、板橋区観光協会のサイトをはじめ個人のブログなどでも取り上げられています。でも私が行ったときは午後3時過ぎで、逆光で見ることになってしまい、鐘がどんなものかがあまりよくわかりませんでした。

 

4.見どころいろいろ

お砂踏みのほかにも、安養院には珍しいものがありました。西国三十三観音を模した石仏です。千手観音、十一面観音、如意輪観音などさまざまな観音像が33体、周囲を取り囲むように配置されていて、それぞれの像の横に札所と番号と観音の種類、および願主の名前が刻まれています。
私は解説を読まずにいきなり仏像を見たので、初めは何のことかさっぱりわかりませんでした。知らないお寺の名前があったからです。そこで改めて解説を読んだところ、ようやく西国三十三観音だとわかりました。
観音様を拝んだ後は、大師堂、多宝塔と常圓堂を見て回りました。多宝塔の裏には古い石像や供養塔がたくさんあります。庚申塔や青面金剛像のようですが、一見しただけではよくわかりません。判明している範囲でよいので解説があれば、もっと見ごたえがあったと思います。
常圓堂に近づくと、照明が自動で点灯しました。ガラス越しに堂内をのぞいてみると、大きくも小さくもない仏像が見えました。ガラスの手前には新しい花が供えられています。この瞬間に長居が許されない空気を感じた私は、仏像の前でそっと手を合わせて拝み、速やかに立ち去ることにしました。

 

5.知っている土地とのつながりがわかった!

境内を一通り散策した後は、上板橋の隣、ときわ台駅まで歩くことにしました。途中で立ち寄った東新町氷川神社では新年の準備をしている最中で、年の瀬を実感できました。またときわ台の駅前商店街は、上板橋の商店街と同様にどこか雑然としていて、生活者のエネルギーで満ち溢れていました。年の瀬と同時に、知らない土地を歩く面白さを実感します。
ときわ台駅からは、バスで赤羽へ向かいました。バスを使った理由は、どの道を通って赤羽に行くかを知りたかったからです。
バスに揺られて車窓から外を眺めていると、前野町のイオンのあたりで見覚えのある風景が―。この瞬間、知っている土地と知らない土地がつながりました。
「なるほど、そういうことだったのか」
なじみのある赤羽、志村や前野町と、なじみのなかった常盤台とのつながりがわかって、目からうろこが落ちたような気分です。
その日は安養院の見どころを満喫しただけでなく、知らない土地を散策する楽しさをたっぷり味わい、さらに知っている土地とのつながりも確認できました。2016年の締めくくりにふさわしい、中身の濃い時間を過ごせたと思います。

 

Lisa Aoki Jan 2017