大和三山とは?
現在の藤原京跡を囲む、香具山(東)、耳成山(北)、畝傍山(西)この三つの山を、当時大和国だったことから、大和三山と呼びます。万葉集にも中大兄皇子がこの三つの山と男女の恋を詠った歌として残っています(他にも解釈があります)。私がこの三つの山に興味を持ったのはその歌からでした。調べてみると、それぞれに山の名前を冠した神社があり、特に香具山にはなにやら曰くありげな名前の神社も点在していました。そこで、今まではもっぱら明日香・奥明日香に行く際に眺めるだけだった山に、登ってその山にある神社を訪ねてみようと計画を立てました。山に囲まれた盆地はほぼ平らな土地なのでふもとまではレンタサイクル、登山口らしきところからは歩きと言う事にしました。
香具山
おそらく大和三山の中で馴染みがあるのが天の香具山ではないでしょうか。それがどこにあるかは別として百人一首の「衣干すてふ 天の香具山」で有名だと思います。実際には山と言うより少し高めの丘が二つ繋がったような形をしています。地図には山の名前を冠した神社の他に、心をそそられるような名前の神社が密集していました。後述しますが、さすがミステリアスな土地・明日香と思ったほどです。今思うと、それが藤原京から見て東、つまり太陽の昇る方角にあるのもなにやら気になります。逆に西の向かいにある畝傍山には神武天皇稜とそれを祀る橿原神宮が隣接しています。ちなみに、香具山のように藤原京の東側一帯には史跡はあれど、歴代天皇の墓所はありません(現在わかっている限り)。
香久山2/天岩戸神社
香久山の南側のふもとにある天岩戸神社から、訪ねることにしました。山の中というより、住宅街と山の境目ある神社で、小さな鳥居(155cmがくぐれない位)から山を背にした建物に細い参道が伸びていました。その壁には丁寧に説明板が設置してあり、いわゆる天岩戸神話の概要が書いてありました。社殿は無く後ろにはすぐ山の竹林が迫っていて、紙垂のついた細い縄で仕切られた向こう側には、神話そのままのような岩が三つ折り重なるように立っていました。ちょうど南側の斜面だったので、竹林の中でも太陽が当たる位置にあって、まさか実際に岩があるとは思っていなかったので、神秘的だなと思うのと同時に、少しゾクッとしました。
香久山3/伊弉冊神社
次は山頂へ向かいながら小さく地図に書かれた神社を目指そうと思ったのですが、すでに地図には道が未表記、山へ入ると思しき道に入ると、山頂にも神社があるので遊歩道だろうと勝手に思っていたのですが、すぐに背の高い草の茂った山道でした。これは目的の場所まで迷わずに行けるのか若干不安になりつつ、人が通れるようになっている場所を進むと、いわゆる山道にあるような木の看板が立っていて、目的の伊弉冊神社への方向は確認することができました。表示と山道に沿っていくと、ごく小さなお社がありました。山の中腹、人が一人通る位の道がかろうじてあるそのわきにポツンと立つそのお社は新しい物で、きちんと誰かが常に整備していることが伺えました。
伊弉冊神社
〒634-0022 奈良県橿原市南浦町
香久山4/伊弉諾神社
伊弉冊神社から山を登らずに、中腹を這うように伸びている細い道を進んでいくと、伊弉諾神社があります。ちょうど伊弉冊神社と同じくらいの大きさの小さなお社で、この二つが対をなしていることが分かります。ただし、山道を登って比較的すぐのところにある伊弉冊神社から、伊弉諾神社に行く道は少々足元に注意が必要なくらい細く、足を滑らせたら丘の下まで転がりそうなくらいでした。対をなしていながら、この二つを結ぶ道の危うさと険しさに、黄泉の国とイザナミ・イザナギの神話を思い出しました。また、この伊弉諾神社の社には、希少種の日本ミツバチが巣を作っていて、このあたりの農家の受粉を行っているそうです。伊弉冊神社にはそのような立て札はなかったので、虫にも思うところがあるのか単なる偶然なのか、不思議な気持ちになりました。
伊弉諾神社
〒634-0022 奈良県橿原市南浦町
香久山5/国常立神社までの道のり
香久山の山頂までは、先だっての豪雨もあり、登りやすいように作られた木で階段状に整えた地面もところどころ土が抜けていたりして、ひやひやしながら登りました。伊弉冊・伊弉諾神社から上は、森のように木でこんもりと覆われていて、道もその木を分け入るようでした。それでも道の分岐になる所には、立て札がきちんと立っていて、迷わないようになっていました。(外から見ると迷わない大きさの山に見えますが、実際に登ってみると、そんなことはありませんでした)想像していた以上に果たして本当に山頂につけるのか、不安になりつつ登っていくとそれまで鬱蒼とした木々で薄暗くなっていた視界がパッと晴れて、山頂の広場のような所に出ました。そこはちょうど木がドームのようにかぶっていて、社とその前の小さな舞台のあるところがぽっかりと開いていました。そして西側に木の茂っていない所があり、そこからちょうど藤原京跡はさんで畝傍山を見ることができました。
国常立神社(國常立神社)
天龍神社(天?神社)
〒634-0022 奈良県橿原市南浦町326
二つの神社が並んでいるので、住所は同じ
香久山6/国常立神社と天?神社
香久山の頂上のメインは、国常立神社です。祀られているのは、国之常尊、記紀の創世神話でイザナギ・イザナミよりも前に出てくる土地を表す神様です。山頂の社の向かって左側がその土地の神様、そして右側の社に祀られているのが高?神(いわゆる竜神様)、社のすぐ前には水の入った甕が埋められていました。説明板によれば古来、日照りの時には雨乞いの儀式を行っていたそうです。その証拠に、社の前には東屋のような形をした舞殿のようなものがありました。木製のそれは見た感じでは古いながらも綺麗に人の手が入っているようで、今でも使っていると言われてもきっと納得すると思います。ちなみに、国常立神社と天?神社は甕の有無そこありますが、二つともほぼ同じ大きさの社が並んでいて、ちょうど、土地の象徴とそれを豊かに潤す雨の象徴が対等に祀られているという印象を受けました。
香久山7/下山の印象
頂上の参拝も終わったので、下ります。北側に抜けることも考えましたが、自転車を止めていたというのもあったので、来た道をそのまま戻ることにしました。国常立神社の明るい山頂から、茂った森を抜け伊弉冊神社と伊弉諾神社のある明るい中腹に出ます、そこから天岩戸神社に出るまでもう一度、木のトンネルのような場所を通り、天岩戸神社のご神体の岩の裏を見ながら香久山を下りました。山とは言え、道は険しいですが丘に近い高さなので、下りてしまえば、すぐに民家があります。そこまで下りてきた時、「あ、私は今、この世に戻ってきたんだ」と言う妙な実感がありました。別段奇妙な体験をしたわけではないのですが、今までいた場所が恐れ多い場所だったというのを同時に実感しました。
香久山8/天香山神社
山の名前を冠するこの神社に辿り着くまでが一番苦労しました。ちょうど北側の万葉の森のあたりから月の誕生石、蛇つなぎ石を見つつ行こうと思ったのですが、さっきまではあんなに晴れていたのに急に雲行きが怪しくなってきたので、神社に行くことに絞り、立て札に沿って森の中に入りました。人が通った形跡がかろうじてある右側は急斜面という道を迷いつつ進み、裏手から社殿の前に出た所で雨が降り出しました。ですが、境内の隅にある波波迦の木(ははかのき)という看板を見てみると、紙垂のついた縄をまかれた桜の木の一種なのですが、一部切られていてそれは平成二年の大嘗祭の時に行った斉田点定の儀の亀占に使用されたとありました。(占いの時に燃やす材料にします)古来から占いに使う動物を香久山で狩り香久山の木で燃やしていた占いが、現代にも繋がっているんだなと思いました。
天香山神社
住所、奈良県橿原市南浦町608
天香山神社(橿原市観光ナビ)
天香久山神社(GOOGLMAP等)
と二種類あり
耳成山1/向かうまでの道のり
香久山を下りて、耳成山まで、あまりにも雨足のひどい時は雨宿りをしながら、耳成山へ向かいました。耳成山は、ちょうど藤原京の北側あり、とてもきれいな円錐形をしています。以前藤原京の太極殿跡からもその姿を見ていたので覚えていました。後ろに他の山がすぐに控えているわけではないので、ただそこにポツンとそびえていると同時に、見つけやすい山でもあります。さて、そんな耳成山ですが、目視での距離はそんなになさそうに感じたのですが、思っていたより距離があり、雨宿りしながらのレンタサイクルでは時間がかかってしまいました。その間にも、雨雲がいくつか通り過ぎ、ふもとの耳成山の南側の池にある公園につく頃には路面も乾きはじめてちょうど、どうぞ登ってくださいとばかりに耳成山の登山マップと対面しました。目指すは耳成山口神社、そして山頂です。
耳成山2/耳成山口神社。
山頂まではちょうど山をぐるぐると周回しながら登るルートが書かれてありました。山道に入ると、途端に舗装もなく生い茂る木々で昼ですが視界はやや暗くなります。遠くから耳成山を見るとちょうどこんもりと盛り上がった森のようになっています。耳成山に入るという事はその森の中入ると言うことなのでしょう。山頂の近くになると森が少し開け、鳥居が迎えます。境内の前は広場のようになっていて、桜がちらほらと咲いていました。満開になれば桜の名所なのかもしれません、私以外にも訪問者がいらっしゃいました。あと、他の山の神社では会なかったのですが、野良猫が数匹社殿や境内をうろついていました。野良というよりはこの神社に住み着いているという印象を受けました。
耳成山3/再びの雨
拝殿を通って本殿にお参りをし、裏手の方にまだ少しある山の頂上まで登ってから降りようと思っていると、再び雨が降り出しました。その日は快晴の予報で、サイクリングで回る予定をしていたので、傘など持ち合わせていません。走って降りられる雨足ではなかったので、少し軒で雨宿りをさせてもらうことにしました。すると、降りなくて正解だと思う位の土砂降りに。木の間から見える空には青空と雲が交互に見えたので、ここに来るまでと変わらない通り雨だろうと思ってやり過ごしました。それにしても、登る直前だけは快晴だったのに、さあ下りようと言う時にになって土砂降りになるとは、何やら山から下りないように何かされているのかしら、そういえば国常立神社の右隣の祭神は龍神様ではなかったかなと思い出して寄ってきた野良猫と一緒にしばらく雨宿りをしました。
耳成山4/山を下りるとそこは
かれこれ30分くらいたったころ、そろそろこのままだと畝傍山まで行く時間が無くなってしまうのではないかという危惧と、傘がなくてもずぶ濡れにはならないだろうと言う降りになってきたので、目と鼻の先の頂上まで行って山を下りることにしました。頂上はちょうど神社の後ろにあるのですが、晴れていたらランチでも広げられそうな木製のベンチとテーブルがありました。そして、いざ降りようとする時また、雨脚が少し強くなってきました。しかし、神社の軒以外には雨をしのげる所なんてありません。御朱印帳の入っている鞄をぬらさないように気を付けて、山をぐるぐると回るような道を下りると、なぜか、入ってきた方とは逆の山の北側に出ました。そこには小さな祠があって、それと表の道路の境目にお百度石がありました。同じ道を下りてきたはずなのに、方向感覚が全く逆になっていたのと降りてみると道はすでに乾きはじめていて、今まで山の中で降られていたのがまるで嘘ような晴れた空でした。
耳成山から畝傍山まで
山の南側に止めていた自転車は、取りについたころにはもうすっかり乾いていて、次の目的地の畝傍山まで急ぐことにしました。地図で調べると、線路と大きめの道路を越える必要があり、それまでの山を目指せば着くとは言い難く、経路を一つ一つ確認しつつ向かうことにしました。そして、もう雨は降らないだろうなまた陰りだしたと空を見上げると、ちょうど龍の様な形をした雲に太陽がパックリと食べられる所でした。香久山の下山の際にこの世に帰ってきた感じがしたことや、その後何かと雨で足止めを食らった事を含め、神社をはじめとした神域に足を踏み入れる事について、改めて畏怖の念を覚えました。それでも好奇心が打ち消されるわけではなく、畝傍山へ向かいました。
畝傍山までの難所
耳成山、つまり畝傍山の北側から向かおうとすると、二つの関門があります。それは神武天皇陵とその綏靖天皇陵の二つです。御陵なのでもちろん宮内庁の立て札があります。そしてこの日、香久山と耳成山での事もあり、レンタサイクルのまま神域にむやみに立ち入るのだけは避けたいと思い、畝傍山の西側の畝火山口神社に向かおうと、とにかく西側に進むことにしました。しかし、藤原京のマス目状の道が当たり前ですが畝傍山の周りだけありません。香久山から見えたその山はすぐ目の前に見えるのに、不思議となかなか辿り着く気配がありません。そして、避けていたはずだったのですが、神武天皇陵すれすれの道を走っていました。道の右手は畑、左手は宮内庁印の森という光景が、私にとってはとても不思議でなりませんでした。
畝火山口神社
おそらく、香久山、耳成山と回ってきて、立地の理由もあるかもしれませんが、一番大きな神社かもしれないと感じました。この神社は山の麓にあるので、畝傍山へ上るには、神社の左の山道を登らなければならなかったのですが、時間の関係で山に登ることはやめました。社殿は朱色が鮮やかで、山の中に隠れるように立つのではなく、まるで人を迎えるように山を背にしているのが印象的でした。そして、いわゆる「子宝祈願」の神社で、そもそも、この大和三山巡りを決行した理由が、畝傍山を取り合う香久山と耳成山の歌(別解釈あり)だったので、とても納得がゆきました。そして、女性にあたる畝傍が墓所の連なる藤原京の西側にあると言うのも、なんとなく死の隣には必ず生があるという事なのかなと思いました。(補足:奈良の橿原、明日香、奥明日香とめぐっていますが、元々農村地帯のせいか豊穣祈願と子孫繁栄をお願いする神社が比較的多いように思います)
By Satoko Aug 2016 - Dec 2016
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