1 生まれて初めての札所
いわゆる札所巡りと言えば「四国八十八ヵ所」という先入観が今まであり、恥ずかしながら、関東の坂東札所、関西の西国札所、その他京都にある霊場の存在を、実際に意識して回るまで知りませんでした。ただ順番など札所というものにどうやってお参りしたら良いのかわからなかったのですが、「とにかく札所に指名されたお寺さんに行ってみたい」という一心で白羽の矢が立ったのが、それまで橿原〜明日香をめぐっていた内に目をつけていた岡寺。今まで大小様々神社を巡ってきましたが、お寺さんはこれが初めてなので、以前三島大社で神社とお寺の御朱印は分けて下さいと言われていたので、神社とは別の御朱印帳を用意してまいりました。それにしても、地図にある岡寺と、岡寺駅はずいぶんと離れているという事に気が付いたのは、訪問の前日でした。
2 岡寺に行くまでの道乗り
地図によると、岡寺は藤原京の東側を囲む丘陵の一部、その中でも香久山のちょうど南にある事がわかりました、よって、藤原京を完全に横断します。訪問日、レンタサイクル屋さんで岡寺の事を聞くと、ちょうど高架の下に自転車置き場があるからそこからは歩きで登ってと言われ、香久山へ行った時も途中からは歩きだったことを思い出しました。実はこの日の前日はちょうど雨で、もしも天候が思わしくなかったら、橿原神宮前の駅から徒歩圏内で行けるところを散策しようと思っていましたが、幸運にもしっかり晴れてくれました。ちょうど藤原京の真上が帯のように晴れていて、東西の山の方へ雲を追いやっているように見えました。さらに、これから行く岡寺の方面には雲が少し低くかかっていて、さして標高のあるわけでもない香久山の頂上がちょうど雲に隠れていました。これは、岡寺へ行くのは大丈夫かなと思いながら、初めて見る濁流の飛鳥川を渡って、近くまで行くと、山にかかる雲も晴れて、香久山の頂上から細い雲が伸びているだけでした。以前の龍神様を祀った神社が頭をよぎったのは言うまでもありません。
3 岡寺に行くまでの道のり・其の二
山に登るのは、地図で確認した際にある程度予想はしていたのですが、自転車置き場まで来た時、その傾斜に驚きました。斜面によってはほぼ崖です。それでも歩いて登れる傾斜ではあったので、きっと山頂にあるのだろうと思い上ると中腹より少し登ったあたりに山門があり、「拝観料」ではなく「入山料」を払いました。入山料、という事はこれからもっと山の方へ上っていくのだろうか、これは岡寺ではなく山寺ではないのだろうか、札所というものはこのように厳しい場所にあるのだろうか、そういえば四国の霊場は難所があると友人に聞いた事があるのでこちらも難所の類だろうか、そもそも巡礼地なのだから行き着くまでにそれ相応の労力が必要なのだろうかと、札所初心者なので入山受付から本堂や塔がまた数段上の層にあるのを見上げながら思いました。
4 岩の岡を飾る色
岡寺は想像に反して色鮮やかで、下から見ると三重の塔のある場所から五色の旗と、西国札所草創1300年の記念の催し物の旗がひらひらと見えました。そして登り始めの岩肌には黄色の彼岸花が見頃で咲いていました(訪れたのは10月後半です)、彼岸花に赤と白をの他に黄色があると以前奥明日香を訪ね歩いていた時に聞いていたので、やっと奥ではありませんが飛鳥の地で彼岸花しかも黄色に出会えてうれしかったです。本堂のある層まで登ると、花壇があり鞠のような形で咲くダリアがありました。外側の濃い桃色から内側の白まできれいなグラデーションになっていて、下に水こそありませんでしたが、頭の中のイメージにある極楽に咲く蓮の花のようにも思えました。
5 アルカイックスマイルの塑像
岡寺の御本尊が木製でも、金属製でもなく、塑像だという事は前調べで頭ではわかっていましたが、知っているのと実際に見るのとは全く違っていました。初めて見た塑像の大仏はどこかぬっとしていて、薄暗い本堂の中でも白い地肌が浮いて見え、そんな手の形を取っているわけではないのですが、どことなく訪れた者へ手を差し伸べているように感じました。素材のせいもありますが、口元のあたりが赤く、古い染料が落ちずに残っているのが、遠くからでも見えました。本堂には、ご本尊の横側から裏に入れるようになっており、縁に細かな草花の模様の入った古い時代の瓦も展示されていました。瓦と言えば鬼瓦・魔除けのイメージしかなかったので、どこかアラベスク風のレリーフを思わせる繊細な模様が印象的でした。
6 お寺の御朱印
お寺用の御朱印帳には、はじめて御朱印を頂くので最初のページを開いてお願いしたところ、西国札所の七番目のお寺さんなので、「ここでいいですか」と確認されました。札所専用の帳面を用意しておけばよかったと思いましたが、今回は他の西国札所を巡る予定はなかったので最初のページに頂きました。それまで神社でしか頂いたことがなかったので、お寺のそれは今まで見てきた物とはずいぶん違いました。何より、真ん中に、仏様の台座の様な模様の中に梵字が入っている印が押され、西国第七番、龍蓋寺という岡寺の正式名称の印でした。最初に押された仏様を象徴する印で、なんとなく自分の御朱印帳に仏様の一部を頂いたというと語弊がありますが、御朱印を頂くという行為は、参拝と祈りの証だという事を改めて感じました。
7、再びの龍
岡寺はまたの名を龍蓋寺と言います。本堂の斜め向かいに龍蓋池という池があり、義淵僧正がその昔、この地を荒らす龍をここに封じたのが元と言う説明版と彫刻がありました。その池の水は、その日渡って来た飛鳥川の濁流とは違う清い水をたたえていました。奥明日香からこの岡寺のあたりまで、田畑の続く田園地帯です。恵みの水の源の川は時として濁流となり荒れ狂う事もあったことでしょう。恵みと災いが紙一重というのは、この日本のどこにでもいえることかもしれません。隣の香久山の上にも龍神を祀るお社があり、ここに来る道中で山へ伸びる龍の様な雲を見たのを思い出しました。人の暮らしと自然が緊密に接しているからこそ生まれた信仰の形なのかなと思いました。
Satoko Arikawa Dec 2016 -Feb 2017
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