1. まるで工場見学
覚園寺では参詣者が自由に境内を拝観するのではなく、寺僧のガイドによるツアー形式で拝観します。10時から15時までの毎時ちょうどに、愛染堂の前に集まった客が拝観料を支払い、寺僧の案内に従って拝観するのです。境内は撮影禁止で、拝観者の列の先頭と最後尾に寺僧がつきます。
はじめに、愛染堂の前で拝観に関する説明がありました。覚園寺の拝観方法はユニークといえますが、説明を聞いていて、どこか工場見学に似ているような気がしました。といっても、私が経験した工場見学よりも、参加人数がはるかに多かったです。工場見学は多くても1グループあたり30人程度だったのに対し、今回の拝観では少なくとも50人以上いたと思います。
次に愛染堂に安置されている愛染明王像と、不動明王像、阿しゅく(しゅく:門構えに人が3つ)如来像について説明がありました。この説明を聞いて、初めて「阿しゅく如来」の読み方がわかったのです。字を見ただけでは読み方がわからなかったので、新しいことを一つ学ばせていただきました。
2. 薬師堂へ
愛染堂の仏像についての説明が終わると、拝観料を支払って薬師堂へ向かいます。
途中ではモミジの紅葉が見事でした。見ごろをやや過ぎてしまった感じはありますが、それでも青空に紅葉が映える様子はきれいです。イチョウの黄色い葉が地面に落ちて、モミジの紅葉が見ごろを迎える頃も、赤と黄色のコントラストが鮮やかだと聞きましたが、私が行ったときには残念ながらその時期を過ぎていました。
薬師堂は茅葺き屋根の大きな建物で、圧倒的な存在感がありました。周囲には荘厳な空気が漂っていて、一歩足を踏み入れると姿勢を正さずにはいられないような気持になります。その一方で、床が石敷きではなく土間になっているところがユニークだと思いました。
3. 迫力のある仏像
拝観者全員が薬師堂の中に入ると、仏像の説明があり、その後各自が自由に見る時間を設けました。
薬師堂の正面には本尊の薬師三尊像、左右には十二神将像、右奥には阿弥陀如来像、左奥には伽藍神像があります。どの仏像も言葉で表現し切れないような迫力のあるものばかりで、それぞれの像の前で手を合わせて拝まずにはいられませんでした。薬師堂が圧倒的な存在感を誇るのは、これほどの仏像があるからこそだと思います。
また堂内には、足利尊氏自筆の銘が入った梁牌(りょうはい:梁に取り付けた札)もありました。下から見上げた梁牌は思いのほか小さかったです。この梁牌のように古くて小さいものが何百年も残っていることには、とにかく感心させられます。
4. どこか懐かしい
次に、旧内海家住宅へ向かいました。江戸時代に建てられた、茅葺き屋根の大きな民家で、昭和時代まで実際に使われていたそうです。中に一歩足を踏み入れると、独特なにおいが漂っていて、過去に人が生活していた様子がうかがえました。民家には土間と板の間と畳敷きの部屋があり、見ていてどこか懐かしい感じがします。
民家の中には十三仏に関する掲示があり、それをもとに十三仏の説明が行われました。特に五七日(死後35日目)の閻魔大王と六道と地蔵菩薩に関する説明は興味深かったです。人は死後35日目に閻魔王の裁きを受けて六道のいずれかへ行く、地蔵菩薩は五七日(死後35日目)を司る仏で、閻魔王の本地仏である…といった知識があると、いろいろなお寺にある六地蔵像の見方が違ってくるように思います。
5. やぐらと黒地蔵
旧内海家住宅で十三仏に関する説明を受けた後は、やぐらと呼ばれる大きな横穴へ向かいました。拝観者はやぐらに入ると、各自でろうそくに火をつけて、ろうそく台に立てました。ほの暗いやぐらの中でたくさんのろうそくの灯がともっている様子は、どこか不思議で幻想的な感じがします。
ろうそくを立てた後は、やぐらの壁にある十三仏について説明を受けました。十三仏の像は、下から上に向かって初七日の不動明王から三十三回忌の虚空蔵菩薩の順に並んでいます。やぐらの中に十三仏を順番に納めるということ自体、趣向を凝らしているといえるでしょう。それに加えて、旧内海家住宅に十三仏についての掲示があり、それをもとに説明をしてからやぐらで十三仏を見るというのも、なかなか気の利いた演出だと思いました。
最後に、地蔵堂で黒地蔵を拝観しました。地蔵堂は他の建物に比べると小ぢんまりとした感じです。その中に納められている黒地蔵は文字通り黒っぽい木製の地蔵像で、薬師堂の仏像よりもずっと親しみやすい感じがしました。
黒地蔵を拝観した後は、地蔵堂の脇にある六地蔵像などを眺めながら出入り口に戻り、境内全体の拝観を終えました。振り返ってみると、実にユニークで、中身の濃い拝観だったと思います。
By Aoki Lisa Dec 2016