“錦鯉”や“小千谷縮”で知られる新潟県小千谷市。市内の土川地区に「魚沼神社」という歴史ある古い神社がある。境内は大きな杉の木に囲まれており、厳粛で、それでいてどこか温かいような、不思議と心が落ち着くような、そんな静けさが漂っている。父の実家がこの「魚沼神社」のすぐ近く(歩いて30秒ほどの場所)にあったため、子供の頃、お盆やお正月に家族で帰省した時などは、兄弟や従姉妹と境内でよく遊んでいた。鬼ごっこをしたり周辺を探索したり。何か特別なことをしている訳ではないのだが、神社という特殊な場所のせいか、皆いつもよりも妙に気持ちが高ぶり、はしゃいでいた。私はここにいる狛犬も好きだった。太陽が降り注ぐ夏の日も、雪の降り積もる冬の日も、何も言わず、ただそこでじっと神社を守り続けている。普段は参拝者もそれほど多くないと思われる静かな神社が、ちょうどお盆の頃に、屋台の美味しそうな香りに包まれ、お囃子や人々の笑い声で賑わう。毎年開催される夏祭りである。私達はこれを「魚沼祭り」と呼んでおり、夏休みの一大イベントだった。祭りの屋台はもちろん好きだったが、私は毎年「太々神楽(だいだいかぐら)」を楽しみにしていた。地元の保存会の会員が、それぞれ舞いを披露しお囃子を奏でる。普段の生活では感じられない、地域の祭りならではの空気がそこにあった。子供心に、餅まきをする“おかめ”や“ひょっとこ”が、なんだか怖いような可笑しいような、別の世界に引き込まれそうな…不思議な感覚だった。普段は物言わぬ2対も屋台の光を纏い、どこか楽しげな声が聞こえるような気がした。特別な2日間が終わると、翌日からはまたいつもの静かで厳粛な神社に戻る。子供ながらに虚脱感や脱力感のような寂しさを感じながら、毎年この土地を後にしていた。祖父母が亡くなってから十数年、もうずっとこの祭りには参加していない。しかし大人になった今、ふとした時に「魚沼神社」の空気を感じたくなり、車を走らせる。不思議な力強さと静けさがあるその場所は、私にとっての秘かなパワースポットであり、昔と変わらず私を優しく包んでくれるのである。
はな (20代女性) 1994年〜2000年の8月、夏休みの思い出