1. 念願かなって苔寺へ
鎌倉の「苔寺」こと妙法寺には、ずっと前から行ってみたいと思っていました。しかしながら私が鎌倉へ行ったときは境内を拝観できない日か、妙法寺から離れたお寺に行っていたかのどちらかでした。そして2016年も残りひと月を切ったところで、念願かなってようやく苔寺へお参りすることができたのです。
境内に入って拝観料を支払うと、受付の人から火のついた太い線香を1本手渡されました。はじめに本堂にお参りし、線香をあげて本尊を拝むためです。その後に境内を拝観します。
たいていのお寺では拝観料と線香が別料金になっているか、拝観料は無料でも線香は有料になっています。妙法寺では、たぶん線香代が拝観料に含まれているのでしょう。拝観料を支払うと火のついた線香が渡されるのは、妙法寺のユニークな点だといえます。
2. 季節の移ろい
線香を手にした私は、早速本堂へお参りしました。正面に向かって左手前にモミジ、右手前にマツがあって、その後ろに本堂がどっしりと控えている様子は、渋い味わいのある光景でした。
本堂へお参りした後は、大覚殿の前を通って仁王門へ行きました。本堂から仁王門へ向かう道ではモミジの紅葉が散りかかっている一方、ツバキの花が咲き始めていて、季節の移ろいが感じられます。アジサイなどもあったので、他の季節に行ってみればまた違った趣がありそうです。
朱塗りの仁王門と紅葉の組み合わせも、なかなか絵になる光景です。仁王門は直接くぐることができず、横を通って苔石段へ向かいました。
仁王門の横には薩摩屋敷事件戦没者の墓があります。明治維新の直前に、現在の東京都港区三田で起きた事件で亡くなった人の墓で、事件から100年以上経った1995年に東京から妙法寺へ移されました。解説を読んで「そんなに古いお墓を移せるのか」と妙に感心してしまいました。
3. 苔石段
仁王門の向こうに、かの有名な苔石段がありました。石段は鮮やかな緑色というわけではなく、苔が全体にうっすらと生えている程度でしたが、それでも一つの見どころを作り出しているといえそうです。春や初夏などに訪れてみれば、違った姿を見せてくれるのかもしれません。その一方で石段は古く、通行禁止になっていて、維持管理がとても大変そうな感じがしました。
苔石段の左手には、化粧窟と呼ばれる横穴があります。壁面は整備されていなくて元の岩石のままで、中にはたくさんの仏像や供養塔があり、どこか不気味な雰囲気が漂っていました。
苔石段の右手には階段があり、拝観者はこの階段を上って護良親王の墓などへ行きます。苔石段と階段の間には苔の生えた大きな石があり、その中に小さな仏像がちょこんと納まっていました。仏像からはかわいらしさや微笑ましさが感じられて、見ていると心が癒されます。
4. 上から見ると
苔石段の横の階段を上った先には、法華堂があります。江戸時代の文化年間に建てられたという古い木造の建物は、本堂や仁王門などに比べると、ひっそりと控えめな雰囲気がありました。
法華堂の斜め前には、日叡上人のお手植えと伝えられるソテツがあります。シダ植物に囲まれて太い幹が斜め上に伸びている様子は、樹齢約600年ならではの貫禄と、生命力の強さを見せつけているような感じがしました。
さらに進むと、釈迦堂趾に釈迦如来像が鎮座していました。苔石段のちょうど真上です。この位置から苔石段を見下ろすと、下から見るのとはまた違った景色が楽しめます。苔が全体にうっすらと生えた石段は、どちらかといえば上から見下ろす方がきれいに見えるような気がしました。
釈迦堂趾から鐘楼へ向かって進み、その脇の階段を上ると奥の院御小庵趾に着きます。小庵趾には供養塔が建っていて、その横に解説板があるだけです。このようにシンプルな構成ながらも、祖師を大切に敬おうとする姿勢がものすごく感じられました。
5. 急な山道と緩やかな獣道
次に小庵趾の右側の急な山道を登り、護良親王の墓へ向かいました。山の上にある墓に着くと、急な山道を登り切ったという達成感が得られました。この位置から広々とした海を眺めると、山道を登った疲れが一気に吹き飛ぶような感じがして、気持ちをリフレッシュできます。その一方で、身の引き締まるような感じもありました。墓の大きな供養塔からは一種の威厳が感じられて、写真を撮るのが憚られるくらいだったのです。
護良親王の墓にお参りした後は、山道を下って小庵趾の前を通り過ぎ、南の方の墓や日叡上人の墓へ行きました。小庵趾の左側は右側と違って、緩やかで細い道になっています。落ち葉がたくさんあって、獣道のような道をしばらく歩くと、古い供養塔が何基も目に入りました。南の方の墓、日叡上人の墓、そして日蓮聖人などの御分骨塔です。こちらは護良親王の墓に比べると、つつましやかなたたずまいでした。
この後は山を下って出入り口に戻り、妙法寺を後にしました。
妙法寺は見どころがたくさんあるので、境内を散策していて面白いお寺だと思いました。機会があれば違った季節にまた訪れてみたいです。